相続手続から「生きていくこと」を学ぶ
「そんなにはやく逝ってしまうなんて,考えてもみなかったもの・・・」
先日,ご予約されてお会いしたご婦人。
その方は,習慣となっている掛かりつけの病院から,事務所を訪ねてこられました。
ここ最近は入退院を繰り返されていたというご主人が突然倒れ入院し,あっという間にお亡くなりになったそうです。
ご夫婦でそれなりのお歳になり,「胃瘻はいやだねえ」なんて,時折お話はしていたみたいです。奥様は,親族を長い間お世話し,看取ってきた経験から,大変ではあるけれど,病院嫌いのご主人のこと,きっと私が夫の「その時」に何年か身の回りのことをして送るのだろうと思われていたそうです。
ところが,奥様の予想に反して,御主人のお世話どころか,寝間着を準備しているような段階でさっと旅立たれてしまったそうです。
そして先日,台風の備えをしなくてはならないとき,いつも,ご主人が雨戸を引いて戸締りをしているそうですが,今度は奥様がその雨戸を引くことになりました。
自ら雨戸を引いて,「初めて」雨戸の重さに難儀するのです。
そのときの言いようのない寂しさ。
「近年体調が悪かったのに,こんなときいつも夫にしてもらっていたの。当たり前のように。本当に悪かったなと思って・・・・。」
「もっと,やさしくすればよかったのね」
「空気というか,水みたいというのかしら,私たち(結婚生活が)長かったから」
聞けば,ご主人はなかなか昔気質の方で,気風のいい方だったそうです。
御主人は奥様に負担をかけないようにそっと逝かれてしまったのでしょうか。
でも,奥様とお話をしていると,大変でもそばにいて欲しかったというお気持ちがヒシヒシと伝わってきます。
夏が秋になり,そして冬が訪れる。
大事な人がいない日々が,これから積み重なっていきます。幸い,ご親族もそばにいて,運動施設や通院にもご自身で出向かれるとのこと。
シマは,知った顔ばかりですから,声掛けして皆で見守る風土があります。今回,相続の手続のご説明を差し上げ,そのままご依頼いただき,ゆっくりとお帰りになりました。
少しお時間のかかる手続になるのですが,その時間を御主人との思い出などたくさん聞かせて頂くことになるでしょう。
お仕事のご依頼ではありますが,私自身が「どう老いるか」を毎回ご依頼主を通じて考える大切な機会となっています。
何を大切に日々歩むか,まだ明確にはなっていない私。
日々生きる中で,先人の言葉ほど重いものはありません。
丁寧に「生きる」を学びたいと思います
社労士・行政書士 かしむら