文書作成者の心得
文章予測 読解力の鍛え方
石黒圭 著
文章の細部に宿る意味や感情を深く深く理解するため、はたまた、文章を味わい尽くすための指南書といいましょうか。
再確認したり、感嘆したり。
桜の季節の移動中に読み切った書籍です。
数十年前、ある場所で、目の前にいる人に、今、何を思うか、これからをどう思うか、について話したことがある。
私に起こっていたことは、この人に、決して伝わることはないだろう、そう思いながら。
その出来事の翌日、私は昨日話したことと相違ないか確認するよう言われ、目の前の文書を読み上げられた。
その時私は初めて、これまで客観的に己を見ることができなかった、自分の置かれていた世界を俯瞰してみることになった。
同時に、文章で私自身を表現してくれた目の前の人の凄さを知った。
その人から見れば、私は明らかに違う世界の人。
でも、私の言葉を丁寧に拾い集め、私の尊厳を文章で保ってくれた。
直接的な表現はないものの、光のある方へ眼を向けるよう促されている様な感覚であった。
私は、その文書に署名した。
確かに、その文書はその時の私の意思の塊であったから。
文書作成者
今、法律職となって、様々な立場の方からの文書が行きかう世界にいる。
意見書・報告書・審判書・答弁書・判決文
裁判官の補足意見に感銘を受けることも多い。また、不意にいただく依頼主からのお礼状の文言の美しさに、己の能力不足を自覚することも。
性別や、容姿、所作からは想像もつかない(失礼極まりない表現だが)のだけれど、事後「失礼はなかっただろうか」とこちらが思ってしまうほどの方もいる。
文書表現は奥が深い。
深く思考し、趣旨を理解し、想いを読み取る。
何十秒、何文字、文字を読まず映像(動画)で、見やすく、一瞬で理解するコスパのいい世界がどんどん広がる今、心を紡ぐのための、その労力を惜しまない、伝える力を鍛える。
改めて、覚悟した良本でした。
社労士・行政書士 かしむら